窓辺の緑とたくさんの画材。 手を動かすことから考えをかたちにする。

窓辺の緑とたくさんの画材。 手を動かすことから考えをかたちにする。

汐田 瀬里菜

汐田 瀬里菜

グラフィックデザイナー/アートディレクター
1986年生まれ。2011年よりキギを経て2019年に独立。THE MIMのロゴやパッケージデザインに携わる。

木々の気配が仕事の合間に小さな余白をつくる場所。

―汐田さんのデスクについて教えてください。

汐田 この机は独立した頃に「広い机がほしい」と思って用意したものです。当時はあまりお金もなかったので天板を2枚買って並べて使い始めました。脚は途中で替えていますが机自体はその頃からずっと使っています。

今の家に引っ越したとき、この部屋を最初から仕事部屋にしようと決めていたわけではありませんでした。でも仕事をする場所は必要だったので自然とここを使うようになって。今では窓の外に木々が見えるところをとても気に入っています。

庭には前に住んでいた方が植えた木や植物がたくさん残っていて、知らなかった植物が急に顔を出したり、花が咲いて初めてその存在に気づいたりすることもあります。手入れは大変ですが、時間さえつくれれば庭に触れること自体も楽しいですし、仕事をしながら季節の変化が視界に入ってくるのは心地いいですね。

―普段は自宅とシェアオフィスを行き来されてるんですよね。

汐田 そうですね。ずっと家にいるよりシェアオフィスへ行くことで気持ちが自然と切り替わるところがあります。駅までの道にも緑が多くて、そこを歩く時間も好きです。

何か決まったルーティンをつくっているわけではないのですが、家を出て歩き、別の場所へ向かうことで少しずつ仕事のモードに入っていく。自宅とシェアオフィスの二つを行き来すること自体が自分にとってはちょうどいい切り替えになっているんだと思います。

すぐに形にせず一度手を動かしてみる。

―デスクのまわりには、かなりたくさんの画材がありますね。

汐田 アクリルガッシュやクレパス、筆など以前から持っていたものも多いのですが、ずっと「使いたい」という気持ちはあって、最近になってより積極的に取り入れるようになりました。

パッケージの仕事でも手で描いたものを素材にしてデザインへ展開することがあります。描いたものをきれいにデータ化できるように大きなスキャナーも置いたりしていて、そうした画材や道具が少しずつ増えていくなかで、自分が思い描いていた空間が自然と形になってきたように思います。

画材は最終的なアウトプットを思い浮かべながら「この表現なら何を使うのがいいだろう」と考えて選ぶことが多いです。ただ実際に描き始めてみると、最初にイメージしていたものとは違う形や質感が偶然生まれることがある。そういうときに「これはいいかもしれない」と思えるものと出会えるのが手を動かす面白さですね。

―最近、特にアナログな表現を意識するようになった理由はありますか。

汐田 仕事ではもちろんデジタルを使いますが、頼りすぎると、いつの間にか自分の感覚よりも「うまく形にすること」に引っ張られて、つくること自体を楽しめなくなることがあって。

だから最近は、意識して手で描く時間をつくるようになりました。時間はかかっても、その過程まで含めて自分が楽しめる制作をしていきたいですし、描いてみたり、違う画材を試したりするなかで、予想していなかったものに出会うことも大切にしたいんです。

まだほとんど使っていない画材もあるのですが、持っているだけで気持ちが上がるものもあります。今すぐ使い道が決まっていなくても、いつか何かのデザインで主役になるかもしれない。そういう可能性を残したまま手元に置いておくことも今は楽しいですね。

書くことで頭の中に“間”をつくる。

―画材以外でいつも手元に置いているものはありますか。

汐田 ノートですね。自宅でも使いますし、シェアオフィスへ持っていくこともあります。仕事のメモを書いたり、絵を描いたり、思いついたことを残したりと、使い方はその時々でさまざまです。

きれいに整理された記録をつくりたいというより、頭の中にあることを一度外へ出してみる感覚に近いかもしれません。ノートそのものも好きなので、新しいものを買うと気分が上がる一方、きれいすぎて書くのがもったいなくなり、ほとんど使えていないものもあったりします。

最近は仕事以外のことを書く機会も増えました。子どもが生まれてからは以前のように仕事だけに時間を使うわけにはいかなくなって、家のことや料理、庭の手入れといった日々の暮らしも含めて、時間をどう使うかをより考えるようになりました。

料理をする機会が増えたときには、少しでも楽しく続けられるように料理用のノートをつくってみたこともあります。以前は時間があれば長く仕事をするような生活でしたが、今はいろいろなことが生活の中にある。その全部をどう組み合わせていくか、ノートに書きながら考えたりもしますね。

頭の中だけで考え続けるのではなく、一度書いて、眺めてみる。それだけで整理される感じがあるのかもしれません。

流行を追わず偶然の出会いを残しておく。

―普段のインプットについても教えてください。

汐田 最近は子どもと一緒に図書館へ行くことが増えました。絵本や図鑑も本屋さんに並んでいるものとは少し違って、昔の本も含めていろいろなものがあります。自分では選ばないような一冊を子どもが持ってきて、一緒に読んでみたら「この絵はいいな」と感じることもあって、そういう出会いが面白いですね。

もちろん仕事のために本を探すこともあります。最近、日本の伝統文様をパッケージに取り入れる仕事があったので、文様や着物に関する本を借りて調べました。ただ、図書館にいると目的の本だけを見るわけではなく、その周りにある本が目に入ったり、思いがけないものを手に取ったりする。最初から自分で選びきらないところが良いのかもしれません。

―本屋やインターネットとは、また違う感覚ですか。

汐田 図書館は流行に乗らなくてもいいところが好きなんだと思います。

いまは素敵なものや新しい表現を探そうと思えば、いくらでも見つかります。ただ情報を追いかけすぎると、いつの間にか自分が最初に何をしたかったのか分からなくなる。だから最近は、あえて見すぎないことも意識するようになりました。

その点、図書館では自分が探したわけではないものが視界に入り、子どもが選んだ本を一緒に開くこともある。何かの答えを最短距離で探すのとは違って自分では選ばなかったものが入り込んでくる余地があります。

すべてを自分で探し、選び、集めようとするのではなく、少し余地を残しておく。そのほうが自分の感覚を見失いにくく、思いがけず惹かれるものに出会える気がしています。

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